最近よく耳にするようになったラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)について解説します。
ラピッドプロトタイピングとは、一言でいうと3次元の形状を迅速に試作することを目的とした試作手法のことです。主に3Dプリンタを使用した試作作成の手法に使われている言葉となります。その定義は意外と曖昧で、従来のクレイモデル(粘土)やモックアップ(木)を使い金型で試作作成するよりも早い手段であれば、ラピッドプロトタイピングと呼んでも問題なさそうです。
ラピッドプロトタイピングの研究は意外と古く1970年代の後半から始まっており、1990年代後半からその需要が高まっています。
コンピュータ技術の発展に伴い、プロダクトのデザインはデータで扱われるようになってきました。外観のデザインはもちろん、内部の形状設計、さらにはプリント基板や電子パーツまで3Dデータで扱われています。もちろん、画面上のアニメーションによる動作確認や、バーチャルな干渉チェックも可能となっています。ですが、社内の決済者や顧客に対する提案において、データだけの評価では不十分なケースが多いのではないでしょうか。設計者・デザイナーの観点からも、やはり実際に手に取って触らなければわからないことや、改善する箇所を見つけやすいなど大きなメリットがあると考えます。
一方で、商品とは異なる材料が使用されることや、現在の3Dプリンタで造形される素材では耐久性が低く最終的な機能試験に利用出来ないなどの問題点もあります。また、大量生産する場合は、最終的には金型に起こす必要があるため、一発で完成品を作ってきた熟練の設計者にとっては、ラピッドプロトタイピングは手間が一つ増えると感じてしまうかもしれません。もしかすると、究極のラピッドを求めるのであれば試作という手間はかける必要がないのかもしれません。
少し話がそれましたが、前述のように、ラピッドプロトタイピングというのは、新しい手法ではなく、試作品を迅速に作るという方法を定義・体系化したものです。そのため、商品開発の工程の中には自然とラピッドプロトタイピングに近づいている工程もあるのではないでしょうか。
企業によっては、ラピッドプロトタイピングの具体的な手法を特許出願するケースもあります。『加工装置の改善』『加工方法の改善』『加工材料の改善』などの「手段」を権利化しているケースが散見されます。
近年の動向として、ラピッドプロトタイピングから派生した手法がいくつか体系化されています。ラピッドプロトタイピングで作られた造形物から型を取り複製するラピッド・トゥーリング(rapid tooling)、造形物をそのまま実用品として使用する ラピッド・マニュファクチャリング(rapid manufacturing)など応用展開が広がっています。
さらに、最近では、プロダクトの外形だけでなく、内部の電装部分についても、ラピッドプロトタイピングと呼ばれる手法が広がりを見せています。
例えば、ヨーロッパが主体となり開発が進んでいる、小型PCのラズベリーパイ(Raspberry Pi)や、アルドゥイーノ(Arduino)の誕生により、高機能なアプリケーションを実装した試作が簡単に作成可能となっています。大規模な開発環境がなくても、高度に抽象化されたライブラリ群を利用でき、短時間で下層レイヤにプログラムを書き込むことができます。このような高度なソフトウェアを組み込んだハードウェアを迅速に作り出す事ができる時代になっています。
技術革新が進むにつれ、中小企業やベンチャーさらには個人だとしても十分に大手企業と渡り合える時代が来つつあるのではないでしょうか。
参考文献
1. 独立行政法人 工業所有権情報・研修館
http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/chart/fkikai08.pdf
2. 産業技術大学院大学
http://aiit.ac.jp/master_program/outlook/pdf/design05_tateno.pdf